演 目
ボクサー
観劇日時/08.1.16.
劇団名/Theater・ラグ・203
Theater・ラグ水曜劇場
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸 
音響オペレーター/柳川友希 照明オペレーター/平井伸之 
宣伝美術/久保田さゆり
劇場/ラグリグラ劇場

あの日の記憶の続き

 全編にBGMのように暑苦しい蝉の鳴き声が流れる。僕の心象ではこの蝉の鳴き声は1945年8月15日である。事実としての蝉ではなく、僕の心の中では、その8月15日は蝉の鳴き声に象徴される。
僕にとってのあの日とは 小学校4年の夏である。その日僕は近所の友達の家の前で遊んでいた。何をしていたのかは記憶にない……田舎だったから直接的な戦争の恐怖はなかった。ちょうど昼時だったので帰宅したら戦争は終わったと聞かされた。
直接的な戦争の恐怖はなかったが、軍国少年団としての訓練の経験からいずれ戦争に駆り出され戦死するだろうという漠然とした恐怖はあった。そういう時代の背景は鮮烈にある。
男(=田村一樹)はボクサーである。難敵相手に試合中である。苦戦にもめげずに何度も何度も立ち向かう。それは僕がリアルタイムで経験した当時10歳の感覚であった。
そして、ときどき試合は中断されて男の心情が語られる。それは戦後史の一節でもあり、あの8月15日に至る異常さを引きずっているとも言える。
下手(向かって左側)手前に座った恋人らしい女(=吉田志帆)が、自分の心情を語り男の心に絡んでいく。ただこの絡みは弱く客観的な感じがするのが惜しい。後半になってから幻想場面のように女はリングに上がるが、二人の関係性のドラマとしての存在感が薄いのだ。
しかしこの村松幹男戯曲第二作目というこの作品は、原点のようでもあり、何度も観るときっとまた新たな発見も期待できそうな魅力のある芝居でもある。
田村一樹は鍛え上げたボクサーらしい身体で軽快なフットワークとボクシングのスタイルをそれらしく見せたが、台詞が独特の田村節ともいえる観念的な流し台詞になってしまったのが惜しまれる。