演目 幸せ最高、ありがとうマジで!
観劇日時/11.11.18. 19:00〜20:40
劇団名/北翔大学舞台芸術3年目公演
公演回数/Vol.2
作/本谷有希子 演出/村松幹男
照明/パク・ジウン 音響/浅岡あゆみ 音楽/木村美久・小寺詩織
舞台美術/斎藤亜耶 
衣装・メイク・小道具/阿部まりな 制作/大滝健斗
アドバイス/鈴木静吾(照明)・五ノ井浩(音響)・福田恭一(舞台美術)
劇場名/札幌・中央区 北方圏学術情報センター ポルトホール


脆い家庭という集団の存在
 父・慎一郎(=川口岳人)、母・美十理(=夏目静香)、長男・功一(=
桑名勇輝)そして長女・紗登子(=斎藤亜耶)の家族で経営する新聞販売店。
部数の減少、代金の未収で苦しい家業だ。
 そんなある日、慎一郎の留守に慎一郎の愛人だと自称する明里(=市川薫)
と名乗る女が来て、驚き尻込む一同を無視して乱暴狼藉を働く。
 ただ一人の住み込み店員である山里えいみ(=佐々木茉莉)は、一同が店
内に逃げた隙に明里を自室に連れ込み、自分の被害妄想の肩代わりをさせよ
うとする。
 えいみは、慎一郎にレイプされたという被害妄想をトラウマと称してリス
トカットを繰り返す自虐が生き甲斐だ。
 慎一郎に言わせると、彼女が就職した初日に歓迎宴で飲み過ぎ、自室に送
っていったときの合意のハプニングだったという認識だ。えいみは、自分の
認識が事実と違うことを承知の上で、悩んでいるというか楽しんでいるらし
い。
 慎一郎と美十理は再婚でまだ結婚1年半。功一と紗登子はそれぞれの連れ
子だから血縁関係はない。
 功一は29歳にもなるのに、社会経験はおろか女性にもまったく接触がなく
従って童貞、21歳の妹・紗登子に密かな恋情を抱き、紗登子はそれを知りな
がら何となく挑発したりしている。
 功一は、父には全くの全面服従で暴力にも耐えている。今どきこんな青年
の存在も珍しいが、一種の象徴として見る。
 明里は、自称愛人説が破綻して美十理にも虚構を見破られ、明るい無差別
テロに切り替え、えいみを味方に付けて励まし、石油を店内にばら撒き着火
棒を振り回す。
 もう誰も相手にしない。明里はついに自分自身が頭から石油を被る。進退
窮まった明里は、着火棒を投げ出す。
 一見、ささやかだが平和な集団に狂気が紛れ込むと、いきなり今まで見え
なかった様々な陰の部分が露わになり、その元凶にも原因不明の狂気の存在
があることが顕れる。
 今まで、いわゆる近代古典を演じてきたこの劇団というか学生の勉強のた
めの舞台だが、今回初めて新しい現代劇を見せてくれた。
 同時代の身近な軋轢を等身大に演じて迫力があるのだが、前半が少し冗長
で、劇の展開が激してくると台詞が絶叫調になり意味が不明になる部分があ
る。
 両親を演じた川口と夏目は、ジェネレーション・ギャップを感じさせない
好演だが、特に川口岳人は『薔薇十字団』『羽化』そして今回と続けて3本
を観たのだが三役三様、まるで別人のようで、最初は同じ役者だと気が付か
なかったくらいだ。つまり表現力の幅の広さが頼もしい。だが悪く言えば器
用貧乏で単なる悪癖になる危険性もある。単に器用なだけに終わらないよう
にしていただきたい期待充分な役者である。
 日常を「笑劇」として描きながら、日常の中に潜む原因が曖昧で混沌とし
た裏側を暴き出す、作者・本谷有希子の悲劇表現の神髄を見る。
 なお「笑劇(ファルス)」とは『広辞苑』によると「日常の卑俗な場面を
題材とした短い滑稽劇」であり、一般的には低俗と思われているのだが、演
劇の歴史には大きな位置を示しているし、人間の弱さや矛盾を笑い飛ばそう
という健康な精神をも表現する一つの手段でもあると僕は思う。